本山勝寛(2018)『今こそ「奨学金」の本当の話をしよう。:貧困の連鎖を断ち切る「教育とお金」の話〜』ポプラ新書|読書感想文

本山勝寛(2018)『今こそ「奨学金」の本当の話をしよう。』を読みました。

本山勝寛氏

  • 日本財団パラリンピックサポートセンター 推進戦略部・広報部ディレクター
  • 1981年生まれ、大分県出身
  • 東京大学工学部システム創成学科卒業
  • ハーバード教育大学院国際教育政策専攻修士過程修了

極貧バイト生活を送りながら、奨学金を受けながら独学で東京大学に現役合格。その後、ハーバード教育大学院に留学されています。「学びの革命」をテーマに言論活動を行い、多数の本を出版されています。

『16倍速勉強法 (光文社)』は、韓国・中国・台湾でも翻訳され、累計5万2500部を売り上げるベストセラーとなっています。そのほかにも『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイアモンド社)、『一生伸び続ける人の学び方』(かんき出版)、『最強の独学術』(大和書房)などの人気著書があります。

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教育は格差をなくす「自由の実践」

本書の中で紹介されている本山勝寛氏がハーバード大学院の卒業式で聞いたというアフリカ系アメリカ人の卒業スピーチを紹介します。

『(祖先はアメリカ大陸に渡り奴隷として働いてきましたが、)その子孫である私が世界最高峰の大学で博士号を取得することができた。教育ことがまさに「人々に等しく与えられた権利」であり、格差をなくす「自由の実践(Practice of Freedom)」である。』137p

そもそも教育とは、経済格差や固定化された固定階層をなくすことが目的とされています。本山勝寛氏が奨学金を頼りに生活して、東京大学、ハーバード大学で学ぶ中で、その貧困の連鎖から脱出されたように、奨学金は「希望の光」であるはずです。

それなのに何故、昨今、「奨学金地獄」というような、奨学金が社会問題となってきたのでしょうか。本著は、奨学金の実情、その制度面の問題点や改善点が分かりやすく執筆されています。

現状の奨学金制度の問題点

学費という「投資」以上のリターンを回収できるか?

『大学進学には、お金をかけてでもそれ以上のお金を回収するという、投資の意味合いが強い』57p

本山勝寛氏は、最終章における「教育格差を是正する9つの提言」においては、主に「制度面の充実」を指摘されています。奨学金を受ける側への指摘・提言については、本書においてあまり多くは語られていません。

しかし、個人的な意見としては、現状の奨学金の問題の本質は「大学進学という投資に対して、卒業後に投資を上回るリターンを得らればい人が増えたこと」であるを考えています。

著者が指摘するように、「誰もが高等教育に進学し、2人に一人が奨学金を借りる時代(63p)」「多くの人が当たり前に奨学金を借りる時代になったからこそ、結果的に返せなくなる人が増えた(63p)」となっており、奨学金制度はすでに十分に浸透していると考えられます。

したがって、著者が提言する「教育格差を是正するための一層の奨学金制度の充実」により、解決できる問題ではないと思います。仮に、無償の奨学金給付を拡大させたところで、年収200万円の社会人が量産されれば、投資に見合うリターンとは言えないでしょう。投資額がいくらであれ、投資額を上回るリターンを稼ぐことができる人材の育成、あるいは、そのことを理解し教育を受ける学生側の意識を高めることが重要だと思います。

専門性が高い大学は奨学金の滞納率が顕著に低い

専門性が高く、就職率・就職後の所得水準が高い職業などへの就職率が高い大学における奨学金滞納率が顕著に低いことを著者は指摘しています。

『返済金滞納率の低い大学をみると、医療系大学や国立大学が多い。』49p

少し失礼な表現にはなりますが、オブラートに包みながらも、三流大学ほど奨学金の返済滞納率が高いというデータも示されていました。

このことからも、奨学金をより充実させたところで、「奨学金が返済できない問題」問題を解決できないことが分かるでしょう。

「奨学金を借りて大学に進学したにも拘わらす、卒業後に十分な収入を得ることができない」ということが最大の問題なのです。仮に、大学を卒業したのちに、年収1000万円が保証されるとするならば、奨学金でなくとも大学生活4年間に1000万円の借金をしても何ら問題はないはずです。

私は、これ以上、奨学金制度を充実させて、お金をばらまくのではなく、「投資を回収できる人材に育てること」あるいは、「投資を回収できない人においては、大学に進学せずとも幸せに生きることができる道を示すこと」こそ、今の奨学金問題を解決する重要な点であると考えています。

返済者全体の約2%が返済義務を知らなかった

『奨学金を滞納している人の48.8%、約半数が、借りる手続きをする前に返済義務があることを知らなかった』(平成27年度奨学金の返済に関する属性調査)39p

このデータは、にわかに信じがたいデータです。本書によると、「2016年時点の返済者に占める3ヶ月以上滞納者の割合は3.9%(29p)」とされています。すなわち、きちんと返済をしている返済者全体のうち約2%が返済義務を知らなかったということです。

返済が必要な奨学金を借りる際には、必ず連帯保証人などが必要になるはずですが、この2%の人たちは、何故、返済義務を知らないままに、借金をすることができたのでしょうか。

ここで誤解して欲しくないことは、2016年時点の3ヶ月以上滞納者の割合は3.9%であり、96.1%の人は真面目に返済を続けているということです。たった4%弱の滞納者により、正しく奨学金を活用している人たちへの偏見が生まれないように気をつけたいです。

ニードベース奨学金をいう

アメリカのトップスクールを中心に「ニードベース奨学金」という考え方がある

『授業料は目玉が飛び出るほど高いのに、低所得者層には(中略)授業料免除や奨学金を出す』114p

教育格差をなくすために

これらを踏まえて、本山勝寛氏は「教育格差をなくすための9つの提言」をされています。奨学金制度のさらなる充実や奨学金返済を所得税控除にできるような「奨学金控除」の実現など、主に制度面の整備に対しての主張です。

私の意見としては、必ずしもすべてに賛同することはできませんが、詳しくは是非、本を読んでみてください。2017年にベストセラーとなった河合雅司(2017)『未来の年表』(講談社現代新書)を意識して執筆されているようです。

5年かけてようやく出版された本

本著のあとがき173pに以下のような記述があります。

「5年前に本著を構想し、執筆をはじめ、数多くの出版社に当たったものの、地味なテーマで売れないとの理由で断られ続けた。それでも、(中略)どうしてもこの本を世に出したかった。10年以上私の出版エージェントをしていただいているアップルシード・エージェンシーの栂井理恵さんに無理を言ってお願いし続けて、あらゆる出版社に当たり続けてようやく決まったのがポプラ新書だった』

本山勝寛氏は、これまでのベストセラーの実績など知名度も十分にある方なので、「5年も断られ続けて、お願いし続けて、ようやく出版できた」ということに驚きました。

人生、頑張ってもなかなか思うようにいかないことも多いですが、私も5年10年くらいで諦めずに、信念を持って、努力し続けたいと思いました。

       

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