今年の夏頃にもゲノム編集された食品が出回る可能性があることをご存知ですか?
2019年3月18日、厚生労働省はゲノム編集で開発した一部の食品について、安全審査を受けなくても届け出だけすれば流通を認める方針を示しました。遺伝子を効率よく改変できる「ゲノム編集」という技術を使った食品が、この夏にも市場に流通する見通しとなりました。
簡単にいうと、ゲノム編集食品は、遺伝子組み換え食品のような安全審査は必要なく、法的な義務のない情報の届け出さえすればいいというものであり、当然に表示義務もありません。
ゲノム編集食品について不安に思う消費者が多いと思います。ゲノム編集食品の安全性や正しい情報を伝える食品表示のあり方などについて詳しく解説します。
ゲノム編集食品
ゲノム編集食品とは何ですか?
ゲノム編集とは遺伝子を改変する新しい技術のことを言います。
ゲノム編集の方法は「新しい遺伝子を挿入する方法」と「遺伝子を切断してその働きを止める方法」の2種類があります。
一つ目の「新しい遺伝子を挿入する方法」については、これまでの遺伝子組み換えと同じように安全性の確認が必要であるとし、遺伝子組み換え食品の安全性審査が義務付けられています。
しかし、二つ目の「遺伝子を切断してその働きを止める方法」については、遺伝子組み換え食品の安全性に関する規制の対象外となりました。つまり、改変した遺伝子や有害物質の有無などの情報を同省へ届け出れば、安全審査を受けなくても販売が認められるのです。
「自然に起こる突然変異や従来の品種改良と見分けがつかないため」ということが主な理由のようです。
ゲノム編集食品は、遺伝子組み換えと何が違うのか?
従来の遺伝子組み換え技術は、微生物などの別の生物の遺伝子を入れることで、農薬や害虫に強い品種を作る技術です。他の生物の遺伝子が入るため安全性に対する不安が大きく、厚生労働省の「遺伝子組み換え食品の安全性に関する審査」を受ける必要があります。また、遺伝子組み換え食品は、限られた機能を追加することしかできず、効率が悪いです。
一方、ゲノム編集食品は、主に、遺伝子を切断してその働きを止める(ゲノム編集)により、作物自体の遺伝子を改良します。そのため、他の生物の遺伝子を導入する遺伝子組み換え食品と比べて、安全性が高いと言われています。また、ゲノム編集する遺伝子によって、味や栄養を自在に変えることができるので、消費者にメリットの大きい品種改良を簡単に開発することができます。
遺伝子組み換え食品の審査について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
➡️遺伝子組み換え食品の安全性に関する審査について詳しくは厚生労働省のHP
日本では既に多くのゲノム編集食品が開発されています
世界的にみても日本はゲノム編集食品の研究開発が進んでいます。具体例をいくつか紹介します。
筑波大学の血圧を下げるトマト
筑波大学は、ゲノム編集技術を用いて、高血圧の予防につながるトマトを開発しました。健康機能性成分として注目されるGABAというアミノ酸を多く含んでいます。
例えば、このゲノム編集トマトを食事に添えるだけで、高血圧の予防や改善が期待できるというものです。予防医療の観点からも魅力的な食品となるかもしれませんね。
理化学研究所は毒(ソラニン)のないジャガイモ
理化学研究は、ゲノム編集を用いてソラニンという毒のないジャガイモを開発しました。ソラニンなどの有害物質にかかわる遺伝子の発現を抑制したり、ゲノム編集で遺伝子を破壊することで、毒がないジャガイモを育種することができます。
ジャガイモを調理するときに、皮をぶ厚めに向いたり、芽を一生懸命にとる手間が軽減されることになるかもしれません。家事の時短や大量に調理する食品メーカーなどにとって便利な技術となるかもしれません。
そのほかのゲノム編集食品
高血圧を予防改善するトマトや毒のないジャガイモの他にも、日本では多くのゲノム編集食品が開発されています。
例えば、農業・食品産業技術総合研究機構は収量の多いゲノム編集イネを開発して、2017年春に野外栽培実験を始めました。同年秋には初の収穫を終えています。
また、近畿大学と京都大学は筋肉量が通常の約1.2倍あるマダイを開発しています。近畿圏では、夕方の情報番組で頻繁に取り上げられていました。食べられる部分が増えることで、世界的な人口増加や食料不足などにも対応できる魅力的な技術として注目が集まっています。
ゲノム編集食品の安全性の確保・運用方法
既に多くのゲノム編集食品が開発されていますが、日本国内で流通したことはありません。
実際にスーパーなどで販売され、私たち消費者の食卓に並ぶまでには、食品衛生法上の位置付けや表示などの問題が残されています。ゲノム編集食品の取り扱いをどうするのかが大きな課題となっています。
そこで政府は、「法制度上の取扱いを合理的に整理する必要がある」とゲノム編集食品受け入れのための法整備を求めました。
義務化はせず、届け出を求める
厚生労働省は、2018年9月からの「食品衛生審議会遺伝子組換え食品等調査会」において、ゲノム編集食品の食品衛生上の取扱いについて審議を開始ししました。
そのなかで「何らかの悪影響が発生する可能性は十分に考慮する必要がある」としながらも「遺伝子組換え食品とは異なる扱いとすると整理することは妥当」「法的な義務化は必要としないが、開発者等から必要な情報の届け出」を求めると結論付けました。
今後は、届け出の内容などを検討して、早ければ夏にも申請の受け付けを開始する見通しです。申請する民間企業などが相談できる窓口体制も整えていくようです。
ただ、この報告書については、わずか4回の審議でまとめられており、その内容について疑問視する声も多くあります。
何故ゲノム編集食品の届け出の義務化が見送られたのか?
ゲノム編集食品の届け出の義務化は見送られています。すなわち、届け出をしなくても市場に流通する可能性があります。
届け出の義務化が見送られた理由は、「ゲノム編集による遺伝子の変化は突然変異との見分けが難しく検出できない」ためです。
義務化されていない届け出を実際に企業などがするかは疑問です。このため厚労省は届け出の義務化も視野に入れた検討を続けるとしています。
ゲノム編集食品に対する不安の声
要するに、ゲノム編集食品は、遺伝子組み換え食品のような安全審査は必要なく、法的な義務のない情報の届け出さえすればいいというものであり、当然に表示義務もない。
これに対して多くの不安の声が挙げられています。
「遺伝子組換え食品の安全性審査対象外になった食品においても、自然界の突然変異育種と変わらないという理由から何の規制もなく食卓に上ることになれば、消費者の不安を惹起する」(全国消団連加盟団体FOOCOM)
「ゲノム編集技術の応用で生み出される食品についても、安全性への疑問、また生物多様性への影響や『種子の独占』のさらなる拡大について深い懸念を表明」(生活クラブ連合会)
「中長期的な生態系の維持を犠牲にした『イノベーション』の推進には注意が必要です。自然環境への影響、食の安全、食品表示のあり方を一つずつ考えていく必要があります」(日本ゲノム編集学会)
「ゲノム編集の過程で想定外の変異が生じないと言い切れるのか。審査を不要とする根拠については、もっと時間をかけた慎重な議論が必要」(京都新聞)
世界のゲノム編集食品への規制はどうなっているのか?
ゲノム編集食品に対する取り扱いは各国で議論が分かれています。
欧州では遺伝子組み換えと同様の規制
ゲノム編集食品は、EUでは遺伝子組み換え食品と同等の扱いで、安全審査も義務付けられています。2018年7月に司法裁判所が遺伝子組み換え食品と同様に規制するという判断を示しています。
米国では栽培は規制されていないが流通はしていない
米国では、農務省が2018年3月にゲノム編集食品の栽培を規制しない方針を出しており、実際に栽培はされています。ただ、食品の販売はまだ始まっていないとみられています。
以上、ゲノム編集食品について理解していただけたでしょうか?
ゲノム編集食品は、法的な義務のない情報の届け出さえすればいいというものであり、当然に表示義務もない。
安倍政権は、ゲノム編集技術やバイオテクノロジーを利用した農林水産物・食品の活用などを国策として位置付けています。我が国の経済成長のため、イノベーションを追求するあまりに、一般消費者である国民の健康や食の安全性が脅かされることのない規制作りを切に願います。